読書感想「幻惑の死と使途」・・・
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/11/15
- メディア: 文庫
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今日、ネットでいろいろ調べてこの人のすごさが本当の意味で理解した気がした・・・
個人的に最高の小説家は乙一であった。
それは彼が作る完璧な作品があまりに美しかったからだ。
どういう意味かというと余分な部分が全くと言っていいほどない。
すべてはどこかにかかる伏線になっている。
すべて書き終えた後に不要な部分を削除しているのではないかと感じるくらいに無駄がないのである。
だが、森博嗣は私の中で彼を超える存在になった。
それはミステリィという枠組みを超えて、その先の何かを訴えているからだ。
確かに彼の作品を分類するならばミステリィになるだろう。
例えば、トリックが実に衝撃的な「すべてがFになる」。
これはそのトリック以上に天才・真賀田四季の存在による主人公・犀川創平への変化を与える要因となっている。
この間で生じる犀川の四季に対する感情(惹かれる心)が今後の萌絵との関係に変化を与えてきている。
そして四季には初めて出会えた思考を超える存在となった。
このことで四季は何かしらの変化がもたらされただろう。
おそらく、この作品のメインはこの二人の「変化」なんだと思う。
「笑わない数学者」では明らかにミステリィとしては味気ない内容となっている。
ただ、タイトルの“笑わない数学者”という真の意味を理解したとき、背筋が凍る思いをした。
ミステリィなら必ずトリックに目が行く。
それこそが作品の最大のキーポイントとなるからだ。
だが、作中でいつも言っている通り、トリックが重要なのではなく、その先のテーマがこの作者の作った作品のカギなのだと思う。
それぞれのタイトルにはそのテーマを形付けている。
前回紹介した「封印再度」なんかもまさにそうだとおもう。
壺の中の鍵を取ろうと頑張る人には解けない謎。
外から客観的に思考を繰り広げることによって、解決できる論理的な方法が導かれる。
「天地の瓢」と「無我の匣」といった名前もそこに帰結できるだろう。
この人の掲げる各話でのテーマに触れた方ならこの人のすごさに魅入らされていくことになるはずだ。
今回紹介する「幻惑の死と使途」は“名前”がキーになってくる。
この作品と次の「夏のレプリカ」は同時系列で進行している物語となっているが、テーマとしては似ている。(こちらについては次回)
作中に犀川が「ものには、すべて名前がある」といっている。
この「名前」というものの重要性がこの作品の最後にかかわってくる。
犀「人間のすべての思考、行動、・・・、創造も破壊も、みんな名前によって始まる」
・・・・・・
犀「・・・・・・人は、ついには、その名前のために生きることになるんだ」
人が生きていくうえで付いてくる他人の評価や名声、性格などはその人に与えられたものではなく、その人の名前に与えられたものなのだ。
このことがこの作品の一番のテーマだと思う。
こういったミステリィとは別の何かを伝えてくる著者の思考と作中にこめる構成力が個人的1位の作家の理由である。
この作品ではあまり語られていないが、有里匠幻の名前の謎がまたよく考えたな。
そこをあえて触れていない点も素敵だ。
お気に入りの台詞
萌「この辺りはまだ自然が残っていて素敵ですね」
犀「こうやって、人が入れるようになったら、おしまいだけどね」
犀「そもそも、自然という言葉を使い始めたときから、もう自然じゃないんだよ」
萌「妄想と幻想の違いは何ですか?」
・・・・・・
犀「同じだね」
犀「前者は現実より悪い空想、後者は良い空想に使われることが多い」
犀「記号を覚え、数式を組み立てることによって、僕らは大好きだった不思議を排除する。何故だろう?
そうしないと、新しい不思議が見つからないからさ。」
犀「もの心がつく前から盲目で耳も聞こえなかった人が、何を最初に理解したと思う?そういう人に言葉を教えるには、何が必要だろう?」
萌「実物に触れさせて、言葉を感触で教えたのでしょう?」
犀「それ以前に、重要なことがあるんだ。それは、ものには名前がある、という概念なんだよ。
すべてのもに名前がある、ということにさえ気づけば、あとは簡単なんだ。
ものに名前があることを知っている、あるいは、ものに名前をつけて認識するのは、地球上では人類だけだ」
犀「君の説明は、ただ一点を除いて、すべて正しい、と僕は思う」
犀「綺麗という形容詞は、たぶん、人間の生き方を形容するための言葉だ。服装とかじゃなくてね」
犀「人を殺す動機なんて、一つや二つの言葉で説明できるものではありませんからね。確かに、こうして話をしてもしかたがない。
我々は、ただひたすら、自分たちの精神安定のために、自分たちを納得させてくれる都合の良い理屈を構築しているに過ぎません。
殺人犯の動機なんて、事件に関係のない者のために用意された幻想です。それだけの意味しかない。
起こってしまった事実とは、なんら関係のないものです。これもまた、イリュージョンでしょう」
今日の独り言
「早く8,9,10巻を読みたい。だからだれか時間を〜〜〜!!!」